2012年3月28日水曜日

ブルックナー交響曲第0番



(ハイティンク&アムステルダムコンセルトヘボウ交響楽団・1966年録音)



ブルックナーという人の交響曲は通算で9番まであるが、おかしな事に1番の前に0番という交響曲がある。ブルックナーが晩年になって若いころに書きかけた交響曲を「習作だけどまあいいか0番てことで」みたいに発表したのでこうなった。(さらに他に「00番」というのもある)
実際には、第1番を書き上げた後に着手している作品なので、正確には「1.5番」とでもすればいいのだけれど、ブルックナーはどうも整数で番数を付けたかったのか、とにかく0番だそうだ。




ただでさえブルックナーの交響曲は主題や動機がキャッチーでないものが多くて、よく言えば広大で遠大、悪く言えば凡庸で退屈なものが多いのだが、3番あたりまでは、本当にどれを聴いても同じように聴こえる。0番に至っては、ブルックナーらしさすら感じない、個性のないフレーズが延々と続く。
そんな訳で、この0番を指揮する人もオーケストラも極端に少ない。

このハイティンク&コンセルトヘボウの演奏もかなり希少な部類で、ステレオによる録音は、このハイティンク&コンセルトヘボウが世界初となるらしい。
ハースでもノヴァークでもない「ヴェース版」(弟子の一人)と呼ばれる、ちょっと聞いたことがないような版で、ハース改定前のオリジナル譜での全曲収録となると、数人しか録音した人はいない。今でも聴けるものとしては、このハイティンク以外に探すのはかなり難しいと思う。




現在主に演奏されているのは「ノヴァーク版」と言われる、1960年代になってから出版された改訂版だ。でも「ヴェース版」にせよノヴァーク版にせよ、0番を聴きたいという人は多くないので、かなり影は薄い。個人的にも版の違いはどうでもいい。

同じく滅多に録音も演奏もされることのない1番や2番とこの0番のどっちがおすすめ?と聴かれたら、眠くならない分、0番かなというかなと思う。個人的には2番も大好きだが、0番は特に、後の3番や4番に見られるようなキャッチーな動機(フレーズ)もあり、またいわゆる「ブルックナー休止」や「ブルックナーゼクエンス」と言われるブルックナーならではの独特の間や繰り返しも、1番や2番よりむしろ顕著だ。



普通にいろんな人が指揮しているのを聴くことができる3番(ワーグナーに献呈され、しかもワーグナー節があちこち散見する)よりも、さらに聴きやすいかもしれない。というのも、ブルックナーが交響曲を書き始めて、崇敬していた作曲家達の作風の影響がところどころに出ている。
0番以降も3番ぐらいまでは、ワグナー風のフレーズや他の作曲家の影響は残るが、それらは4番で完全に姿を消し、ブルックナー独自の世界に突入する。

もちろん初めて聴くブルックナーとしてはおすすめはしない。4番や7番や8番を聴いた後に0番を聴いてみると、ブルックナーが約10曲の交響曲を通してやりたかったこと、主題やコンセプトがよく見えると思う。

2012年3月12日月曜日

G.Ph.テレマン/水の音楽(Wassermusik -Hamburger Ebb und Fluht)他


G.Ph.テレマン/水の音楽(Wassermusik -Hamburger Ebb und Fluht)他/バーゼル・スコラ・カントールム合奏団/アルヒーヴ/1961年録音/LP

J.S.BACHと並んで好きでよく聴くドイツバロックの作曲家にテレマンがいる。
テレマンが活躍していた当時は、バッハやハイドンよりもテレマンの方が人気があったそうだ。
しかし、死後忘れ去られそうになっていたバッハをメンデルスゾーンが発掘し、一躍大作曲家として歴史に名を残したのとは対照的に、テレマンは次第に人々から忘れ去られてゆく。
19世紀にはほぼ人々の記憶から消えていたそうだ。20世紀に入り、研究家達の手で再び発掘がされ、第二次世界大戦後、テレマンは本格的に脚光を浴びるようになった。


ドイツのバロック音楽というのは、一種変態趣味のようなところがあると思う。
もしもバロックを「耳に心地良い」音楽として楽しむなら本家本元のイタリアンバロックを聴いた方がずっと楽しい。それはまるでテーブルワインと新鮮なチーズのように気軽だ。
それに比べてドイツの音楽はどうもいつもライ麦臭さと出来損ないのビールのような分かりにくさがつきまとう。

実際のところ、彼らが活躍した時代は宗教大全盛の時代であり、バッハもテレマンもいわゆるドイツプロテスタントの要請によって生計を立てていた職業音楽師である。
そういう国のそういう時代の彼らの音楽を宗教的背景なしに聴きこむのは正直言って難がある。難どころか、半分も理解できないことさえある。
僕自身は、キリスト教や聖書に関して無知とは言えない程度の知識や見解は持ってはいるけれども、やはり日本人、東洋人という立場にあって、真に彼らの時代的メンタリティに肉薄することはほぼ不可能といって良いと思う。

けれども、音楽というものを俯瞰して、ロックやジャズ、そして古典派ロマン派以降のクラシック音楽の方からバロックを眺めてみると、実はドイツバロックも、イタリアンバロックに負けず劣らず、普遍的で人間臭い、人の喜怒哀楽の最も敏感な部分に訴えかける音楽であることに気がつく。

最初のライ麦臭さ、教会カンタータの表向きの顔に隠されている裏を覗いてみることさえできれば、実はイタリアンバロックよりもむしろドイツバロックの方がずっと人間的で懐が深い味わいを持っているということが分かる。

バッハには、簡単に時代を超越してしまうようなところがある。ずっと後輩であるベートーベンやマーラーやショパンを凌駕する程の斬新さを、今でも持つ。
それと比較すると、テレマンは斬新さはやや落ちる。けれどもその分、音楽の「純粋な芸術性」がもてはやされ始める直前の時代において、「耳に心地よいもの」と「芸術性」の十字路を整備して、後輩にバトンを渡してくれた功績は大きいと思う。



Youtube  ハンブルグの潮の満干序曲

2012年3月4日日曜日

ショスタコーヴィチ交響曲第5番/シルヴェストリ/ウィーン・フィル





ショスタコーヴィチ交響曲第5番/シルヴェストリ/ウィーン・フィル/EMI(セラフィム)/1961年録音/LP

ショスタコーヴィチはいまひとつよく分かってない。

このLPはセラフィムシリーズの一枚。EMIが廉価版で出していたシリーズ。150タイトルあって、ジャケットがどれも似た様なデザインになっている。音楽教材や入門用に重宝されていた。僕もコンサートホールソサエティに次いでお世話になった。音質はあまりよろしくないのが多かった。いや、そこそこ鮮明なのだけれど、どこか安い音がするのだ。値段のプラシーボではないと思う。オリジナル原盤からだいぶかけ離れたマスターを使用していたのかもしれない。
このシルヴェストリとウィーン・フィルの演奏はとても貴重なのだけれど、やっぱりこれも音が良くない。弦の音は明快だが、打楽器や管が遠くの方で演奏しているような、弱いようなくぐもったような感じがする。
CDでも入手困難になっているらしいけれど、シルヴェストリで音質のいいのを聴いてみたい。

コンスタンティン・シルヴェストリは、ルーマニアの指揮者で、若くして亡くなっている。当時の共産圏の人だが、イギリスの交響楽団の主席指揮者になったりもしている。

Youtube
シルヴェストリ指揮のショスタコーヴィチ4番。まんまこのレコードと同じもの。第4楽章。
http://youtu.be/jfPEaElG3m4

2012年3月2日金曜日

モーツァルト,ヴァイオリン協奏曲4番(軍隊)・5番(トルコ風)/千住真理子





モーツァルト, ヴァイオリン協奏曲4番(軍隊)・5番(トルコ風)/千住真理子(バイオリン)+イギリス室内管弦楽団/Victor/1987/LP

千住真理子は日本を代表するバイオリニストの一人。デビューは12歳。同世代の自分がクロイツェル教本で四苦八苦している頃に、この人の演奏を聴いて、まあ、そこでバイオリンの弓を折るなんていうほどバイオリンが好きでも上手い訳でもなかったけれど、スゴイなあ、自分には才能ないなあと感じ入ったのは記憶にある。

彼女の演奏はとにかくたおやかでケレン味なく、常に澄み切っていて美しい音色と秘めたパワーが同居する。彼女の後にも、彼女よりずっと上手いバイオリニスト、パワーのあるバイオリニストはいくらでも出ているけれど、バイオリンをガナリ立てなくても、もったいつけなくても、叩きつけなくても、「わっ」という、魂を揺さぶるような清冽な音が聴き手に届くという意味では、未だにこの人を超える人は出てないのではないだろうか。
愛器はストラディバリウス「デュランティ」。

それにしてもジャケットのひどさよ。貸衣装のようなのを着せられて、帯のアオリが「愛のアマデウス」って、情けない。彼女だけじゃないんだけど、なんだか当時のクラシック音楽家ってかわいそうだったなあ。
クラシックを奏でる人は清廉潔白というイメージを強要された時代だけど、だいたいこんな格好でバイオリンなど弾けないし、衣装はしわくちゃだし、軍隊とトルコ風で、愛のアマデウスって。。。パブリシティは何考えてたんだ。千住の良さが微塵も出てない。普通にしてたってすごい演奏なのに台なし。
二十年後、流行の最先端や等身大のセックスアピールを全面に押し出して売り出している今の音楽家は幸せだ。そしてその方がむしろクラシック音楽らしい気がする。

Youtube
モーツァルトがなかったので、バッハのアヴェ・マリア。うーん、この演奏は千住真理子のベストな感じではない。それでもとても良い演奏。
http://youtu.be/Mxy-nBeF5Ng

もうひとつありました。エルガーの愛のあいさつ。この曲は、日本人が弾くと特に、そのバイオリニストの腕も精神性も価値観もモロに出てしまう、ある意味恐ろしい曲(笑)。さて、千住はどうか。この動画への賞賛のコメントが全てを語っていると思う。
http://youtu.be/HzSFat36ZDM

フォーレ/「ヴァルス・カプリス」他/ジャン・ドワイアン(ピアノ)



フォーレ/「ヴァルス・カプリス」他/ジャン・ドワイアン(ピアノ)/ERATO/1977年頃/LP


ERATOというレーベルはフランスのレーベル。手持ちのアナログレコードの中で、特に「音がいいなあ」と感じるのは、LONDON、Victor、そしてこのERATO


フォーレはドビュッシー、ラヴェル、シャブリエと並ぶフランスを代表する作曲家の一人。ピアノ曲や室内楽が知られている。ドビュッシーが、調性や和音が自由な「印象派音楽」と言われるのに対し、フォーレはその直前の、ある程度古典的様式に則った曲調が多い。印象派になぞらえて言うなら、バルビゾン派風かもしれない。歌曲や室内楽などでは、牧歌的でポール・モーリアなどに通じる親しみやすい曲が多い。


Youtube
ジャン・ドワイアン演奏 ヴァルス・カプリス
http://youtu.be/XyLFgW6cbQg


Pavane(パヴァーヌ)
http://youtu.be/mpgyTl8yqbw

2012年3月1日木曜日

モーツァルト「アイネクライネナハトムジーク」/カラヤン/BPO/グラモフォン


モーツァルト「アイネクライネナハトムジーク」他/ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィル/グラモフォン/1965、1968/LP

アイネクライネナハトムジーク ト長調 K.525
セレナータ・ノットゥルナ ニ長調 K.239
ディヴェルティメント ニ長調 K.136
ディヴェルティメント 変ロ長調 K.137
ディヴェルティメント ヘ長調 K.138

一曲目の、アイネクライネナハトムジークは誰もが知るクラシックの代表的な曲。カラヤンのそれは特に洗練されていて、クールで、キレがあってモダンな印象。しかもテンポがとても速い。この65年録音のBPOの演奏は、僕の聴いた事があるアイネクライネの中では最速。

Youtubeから、2つほどカラヤン指揮のアイネクライネの演奏リンクを紹介。たぶんベルリン・フィルではないと思う。
http://youtu.be/9fScO0255Fc

こちらはHMV130という蓄音機でのカラヤンとウィーン・フィルとの紹介。レコードのベルリン・フィルの音は、このウィーン・フィルの歯切れの良い演奏に近く、もっと速い。
http://youtu.be/FdHa1lqGZGg